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2012年9月

2012年9月29日 (土)

第五章 ジョロボのザイロフォン世界 No.77

No.77

「わしは踊りと精霊について話そう。

はじめに、ボーリという無が在った。そこでボーリは非常に奇妙で複雑な踊りを踊ると無の中から声がしたのだ。それが無の精霊であり、見る事すべてを語る声だった。しかし、その偉大な精霊の事を人間は何も知らない。精霊は自分から現われ、自分を知り、自分から出て行く。人間の知るべきものではない。これが人間が神と呼ぶものだよ。」

メスーゼラはゆっくりと紫煙をくゆらせ、落ち着いてテスラ博士に言った。夜空の冷たい空気がゆるやかに降りおりてきた。

「ああ、私を導く者がいるのか!夜気に空気が流れなんと気持ち良いことか!」

テスラ博士は得心した。一つ所に留まることのないひとつの風が自分を導いてきたことを。ものごころ付くか付かぬかの幼年のある大風の日、見上げていた目の前にハヤブサが叩き付けられるように降ってきたのだ。

2012年9月23日 (日)

第五章 ジョロボのザイロフォン世界 No.76 

No.76

「いやいやテスラ博士、物理学的なものじゃない!百万年規模で地球で執り行われて  きたことだ。精霊との交信さ、俺も精霊だよ。アフリカはさすがたいしたものだぜ、ジョロボはアフリカンザイロフォンで強力な精霊と盟友になる事に成功したのさ。」ジャガーピースがメスーゼラの梢で光の言葉をまたたいた。

するとメスーゼラが言った。

「踊りが見えるのじゃろう、ジョロボには。」

「踊り?」

「そう、あらゆるものが踊りを踊っている。テスラ博士、あんたは何を踊るのじゃな?」

「…私はバイオリンを弾くが踊れません。」

「いや、テスラ博士あなたは風だよ、つむじ風があなた自身を導く、あなたの一番強い精霊だ。そしてハヤブサが盟友となった。」

2012年9月19日 (水)

第五章 ジョロボのザイロフォン世界 No.75

No.75

…ここで同時に考えられるのは、アサビコの黄泉からの回帰とは断絶ではなく、偏在と統合の、実空間への新たなる回帰を指したものだったのか…?それであるならば…

 

ジョロボが木琴の手を止めた。

 

「俺が思うに、やつの木琴が三と四の組み合わせのスピードと羅列で、十四枚の鍵盤の右側の主旋律を離れ、基低音の左側を実世界とした結果だな。」

煙草の精霊ジャガーピースはメスーゼラの脇から再び高く立ち上ると、木の股に乗る苔状の共生植物に一気に吸い込まれた。

 

「ベクトル平行体の原理か?テンセグリティの応用も考えられる。木琴でトーラス体をコントロールしているのだな!いずれにしてもジョロボは呪術的だ!」テスラ博士は驚きの声を上げた。

2012年9月15日 (土)

第五章 ジョロボのザイロフォン世界 No.74 

メスーゼラ

No.74

目の前のメースーゼラはもとの老齢な樹木の姿をして言った。

「ああ…、わしは又しても人間のつまらぬ事に深く関わってしまったようだ…、おや、そこにいるのはテスラ博士ではないか?よかった君も無事だったか?魂の記憶の旅はジョロボの奏する木琴の飛躍的位相転換で、新たなステージとなったのじゃ。偏在する魂の波動は、回帰すべく新しい局面を迎える事となろう。わしにとってはどうでもよいことじゃがな。」すると、テスラ博士はおもむろにメスーゼラを見上げて言った。

「偏在するのか?この世界は…。回帰する新しい局面とはいったい何なのだ?わしの物理学魂をえらく刺激する言葉だ。わくわくするぞ。」

ジャガーピースは狼煙のように高く立ちのぼり、空間を察知してすぐさまメスーゼラの脇に低く渦を巻いた。

「大丈夫だ、ちゃんとした実空間だぞ、ここは。俺にとっては虚空間もへちまも無いがな、ジョロボの木琴は完全に力を増した。実空間に新たな回帰ができるとはな!」

2012年9月10日 (月)

第五章 ジョロボのザイロフォン世界 No.73

No.73

夢うつつの記憶がコントンボリや長老を思い起こさせるまで、メスーゼラは、自分が今の今まで経験した大いなる冒険をまったく忘れかけていた。 自分が大いなる思索に没頭する者であることすら靄がかかったように思われた。だが、メスーゼラに内在する煙草の精霊であり盟友のジャガーピースは、明晰な意識を消さずにいた。意識の中央からメスーゼラの意識に強烈に喝を入れた。

「おい!メスーゼラ!起きろ!俺はぜったい眠らないぞ!」

メスーゼラは朦朧とした靄の中から突然に表に飛び出た者のように、辺りを見回した。

「わしは何をしていたのだ?」

「気付いたか!お前さんは自分を失っていた。ジョロボの木琴がたった今位相を超えた。それで、メスーゼラ、あんたの本分を取り戻したのだよ。俺は位相には左右されない。どうだ、カセが外れた気分だろう?」

ジャガーピースは実体化してメスーゼラの側に揺らめきながら煙のように現れた。

2012年9月 9日 (日)

大賢者 第五章 ジョロボのザイロフォン世界   No.72

大賢者72

No.72
ジョロボのザイロフォン世界は驚くほどに進展していた。今までにない飛躍を可能とした…。

アサビコらの上空に大きく開いていた位相の空間は、急激に閉じようとしていた。船は雷鳴と共に間隙を滑り込み、大きくチャンネルが変化した。言うなれば隣り合う別のラジオ局の周波数帯どころか、異相の周波数に飛び込んだ状態だ…。
ラジオブルキナから、偏在する異相のエイリアン局への位相転換が起こったのである。
ザイロフォン・ジョロボの木琴演奏により、テスラ博士とメスーゼラは、うねり狂う夢から突然に覚めたような状況となった。

己が誰なのか、そこが何処なのか、まったく分からなかった。アサビコの人生はそこでプッツリと途絶えて消えた。アマナがどうなったのかも永遠に謎につつまれながら、テスラ博士は自分の元の意識を戻した。

2012年9月 2日 (日)

第四章 世界の果てガランゴ No.71

「コントンボリはクラーケンの呪に憑かれた!海の呪いじゃ!レモ船長とともにクラーケンは強力な怨霊となって蘇ったのだ!神にも取り憑くとはな…。」

 その間にも、悲哀に充ちた死者達の歌声はどんどんと音量を増してうねり、聞く者の魂をどん底に突き落とした。
 「耳を塞いで、身体をマストに縛れ!」ジョロボが怒鳴った。
 大波を乱高下するたびに、ゾンビ水夫どもまで、海に飛び込んで自殺しだした。
 「神もゾンビも有りゃせんな…。わしは、こんなものしょっちゅう聞いておるがな…。」長老は肩をそびやかした。
 
 いよいよと事態はダイナミックさをきわめ、暗雲と大波と光が、ガランゴの落下と相まって、想像を絶する大光景が目の前に展開をはじめた! 

 「ああっ…?船ごと光の裂け目に突っ込むよ!」耳を両手で塞いだアサビコは放心して言った。

第四章 世界の果てガランゴ No.70

アサビコは身の毛がよだった。
 長い長い死者の行列がすぐ足下の船の真下を通るのを見たのだ。海底を列をなして歩む一団の、悲哀の歌だ!
 いよいよガランゴは近いのだ…。
 
 アサビコは気を取り直してアマナからもらったウィリという矢の形をした小笛を思いっきり吹いた。

 「おいおい、気軽に吹いてもらっては困るな、アサビコ君、これが吹かれると俺は弱いんだ。用は何だ?」忽然とコントンボリが再び目の前のマストの上に現れた。
「何だって?もう忘れてるのか!?レモ船長はクラーケンの心臓だぞ!とにかく僕らを、あの光まで飛ばしてくれ。」
 「なーんだあ、お易いご用だ。…クラーケン?…思い当たらんが、そいつらを蹴散らせばいいのだな!」コントンボリが一吹きすると又してもコウモリ人の軍団がゾンビ水夫に襲いかかった。その隙に左手をくるくると回すと光の切れ目はますます近づいた。
 「すぐに忘れてしまうのは…、海の呪いのせいだ。そう、クラーケンの呪いだ!」
 長老が叫んだ。

第四章 世界の果てガランゴ No.69

位相は垂直方向に真っ二つに口を開いた。暗い海を切り裂き、輝くばかりの光が射した
 「船の真上に大穴が開いたぞ!」アサビコが叫んだ。
「天の助けか?位相が開けたのじゃ!」長老はその不思議な光景を拝した。
 「ぬは!諸君!これで助かったなどと思われては大間違いだ!がはは!彷徨えるダッジマン号は、クラーケンの心臓の海の海たる由縁を受け入れた!わしの心臓とともに海の荒ぶる狂おしさそのものとなったのだ!ともに死してもダッジマン号の水夫としての、栄誉有る永劫の労働が、諸君には待っているのだ!ぬははははー!」そうレモ船長は怒鳴ると、ゾンビの水夫どもは、錨の付いたロープを帆船に撃ち込んだ。光に向かうアサビコらの船の自由は奪われ、ゾンビの水夫どもはロープを伝い船に乗り込んできた。
 「ふざけるな!レモ船長!」アサビコはマストに駆け上がった。てっぺんからは、光の位相はすぐそこに見えた。
 遠鳴りに、聞いたことの無い歌声のような響きが荒れ狂う風や波とともに聞こえてきた。
 「こっちこーい、こっちこーい!」何者が叫んでいるのか?海の妖怪なのか?

第四章 世界の果てガランゴ No.68

「ふふ、貴様の知ったことでは、まったくといってない!」レモの怒声が波間に響き渡った。

 風雲急を告げる中、突然ジョロボの木琴が始まった。位相のコントロールは木琴にしか自由にきかない、いや、木琴にすら自由は完全ではないのだが…。

 「おおっ?この悲しき海の調べを奏でる吟遊の者は誰なのだ…?
 彷徨えるわしの心臓が波のように高鳴る…。わしの心臓は、今やクラーケンの心臓に取って代わった。海そのものの懐かしく近づきがたい響きに、狂わんばかりの郷愁で鼓動は高鳴る。わしは海の荒ぶる怪物そのものとなったのだ。
 おお、この張り裂けそうなほどの悲哀に充ちたメロディ、深く狂おしい通奏の和音…。寄せては返すどよもす豊穣の海の狂おしさ!
 
 ええい! それもすべてはガランゴからの大落下で、微塵も残らぬ運命を知れ!
 大海の荒ぶる心臓は破滅に向かい打ち震え始めたぞ!」
 大乱闘の中、レモ船長は狂気の目で笑いを引きつらせ、面舵いっぱいに操舵輪を大瀑布ガランゴに向かい大きく切りはじめた。
「完全に狂っている!手がつけられん!大瀑布から落ちて助かった者は何人たりとも一人も無い!」
コントンボリは弾かれたように空中を飛び去った。
 
 そのとき、天空を分け入るように一筋の光が射した。

第四章 世界の果てガランゴ No.67

もはやそこにコントンボリの姿は無かった。
 荒れた波の上を滑空するように、二、三十の有翼の黒い影が、彷徨えるダッジマン号を奇襲した。翼の人影どもは容赦なくレモに襲いかかった。
 レモが合図をすると、どこから現れたのか幽霊船の甲板にも、三十人ほどの、顔の腐れた海賊風なゾンビどもがバラバラと現れ、大混戦の戦いとなった。
 首が吹っ飛んでも再生する死を知らない男どもの戦いは、凄まじいものだった。

 「このコウモリ野郎!地獄で顔洗ってこい!」有翼人がゾンビの鎖で海に叩き込まれた。だがすぐに再生フィルムのように、瞬く間に肉片は復活する。
 「腐れゾンビめ!どっち向いても身体は無えぞ!」有翼人の刃に、おもいっきり海賊ゾンビの首が空中に飛んで、アサビコ達の居る船の甲板に転がった。首など無くなろうが、ゾンビはズンと切り込んでくる。大波にもまれ転覆しそうな船の甲板は、地獄絵のごとくになった。
 
 「レモ船長!まったく久し振りだな!俺のクラーケンの心臓はどこだ?」コントンボリは空中に浮遊し、レモの目の前にするすると降りた。

第四章 世界の果てガランゴ  No.66

「レモ!全員こき使うのは貴様の勝手だが、預けたクラーケンの心臓を返せ!」コントンボリは船の舳先に上下しながら怒鳴った。
 「何だと?クラーケンの心臓?」長老がマストにしがみつきながら頭を上げた。
 「怪物クラーケンの心臓か?」ジョロボも驚いたようにつぶやいた。
 「何です?そのクラーケンって?」アサビコが聞き返した。すると肩に居たカメレオンのペロペロが喋った。
 「クラーケンは巨大なタコやイカの姿の化け物だペロ。船が襲われたこともある。クラーケンに襲われたら助からないと言われている。深海でクジラと謎の格闘したりもするよペロ。」
 「えっ!その心臓を預けたの?」アサビコはコントンボリを振り返って見た。

第四章 世界の果てガランゴ No.65

 沖合に波の立つのが見え、船は大きく揺れ始めた。
 空は風雲急を告げるかのごとくに乱雲にたちまちに覆われた。みるみると小山の様な波が、アサビコ達の帆船を引き込むように波間に落とし込んだ。
その目の前に、忽然と真っ黒の異様な巨体が姿を見せた。
 「おおっ!これが彷徨えるダッジマンか?」
 長老が叫んだ。
 
 上り下がりする双方は瞬間に飛び移れるほどに接近していた。その甲板はまさしく幽霊船の名にふさわしく朽ち果て、およそ人影は見えなかった。
 いや、目の前を、操舵する真っ黒な影が甲板ごと急降下した?
 「レモ!貴様には貸しが有るぞ!預けた魂を返せ!」
 コントンボリが落雷とともに怒鳴った。
 
 極楽鳥の羽を付けた帽子を優雅に震わせ、大笑いする髭面の大男が波間を上下する。
 レモ、キャプテン、レモネードだ!
 操舵する古風ないでたちの、その髭面の目は狂気に充ちていた。
「貴様ら!終焉の瀑布ガランゴなどに行ける訳が無い!ガハハ!…なぜなら、全員この船で、死ぬまでこき使われるからだ、ガハハ、アハァのハ!」

第四章 世界の果てガランゴ No.64

天空を一連なりの大型の渡り鳥たちが横切って行くのが見えた。
 「位相はあの方角だぞ…。」ジョロボが手をかざし眺めつぶやいた。
 するとペロペロは左右の目を別々の方向に動かしてアサビコの肩に乗りしばらくじっとしていたかとおもうと言った。
 「渡り鳥たちの会話を聞いたペロ。このまま行くと幽霊船に出っくわす!」
 「幽霊船?」アサビコが言った。
 「なんだと?彷徨えるダッジマンのことか!」コントンボリが叫んだ。
 「俺はやつに貸しが有る!キャプテン・レモネード・パフェ!」

第四章 世界の果てガランゴ No.63

ガランゴはすべて大地の終焉だった。その先にあるのは想像を絶する瀑布だ。
 光の巨象は、最終準備のため最果ての島アシカビ島に寄港した。さらなる位相の通過に備え、巨象が優雅な帆船の姿になると、アサビコ、長老、ジョロボは歓声を上げた。コントンボリは、どうも訳が分からず納得のいかないながらもマストを叩いて確認したり、きょろきょろと見上げたりしながら言った。
 「ゼンタイ、訳の分からんことの方が多いのだよ、たとえ神々でもな。」

第四章 世界の果てガランゴ No.62

「位相が生じているのじゃ。」
 長老はアサビコに続けて耳打ちした。
 「コントンボリは半身を異界に転じておる。われわれが見えるものが逆に見えないし、分からんのじゃな…。こいつはどうもあまり信用が置けぬぞ。」片目を瞑ると歯の無い口で笑った。

 「特別な観光ルート案内?何ですそれは?チョコは全部差し上げます。ぼくはぜひとも生きて戻らねばなりません。さあこれで全部です。」アサビコは銀紙を差し出した。
 「おお、なんと素直な青年だ!よろしい。」そう言うとコントンボリは手から引ったくり、口にチョコを放り込んだ。そしておもむろに背中のずだ袋から何やら丸いものを取り出した。掌にのせ息を吹きかけると、それはクルリンと広がった。
 「これは霊的ペットのカメレオンのペロペロだ。こいつは確実に道案内をしてくれるだろう。ただしスローモーだ、そら、受け取れ!」
 「かわいい!」アサビコはすぐに緑のそいつが気に入った。

第四章 世界の果てガランゴ No.61

「ところで、どうしたことだ!?湖は驚くほど穏やかなのは…。
 …お前達はよほど運が良いとみえるな…。 
 それはさておいて、いよいよガランゴに向かうぞ!
 ガランゴはこの世の果てだ。生きて生身の人間がその瀑布を拝めるとはな!
 そこは見渡すかぎりの水が奈落へと大落下する凄いところだ。
 どうだね、アサビコくん、黄泉への旅はいよいよ難を極めてくる、我が輩にそのポケットからのぞく残りのチョコレートを全部くれないかね…。生きて帰れる特別な観光ルート案内が欲しくはないかね?。」
 コントンボリの言葉にアサビコは首をひねった。
 「光の象が分からないのか?背に居ながら?!」

第三章 黄泉からの帰還 No.60

「水の精?この澄んだ湖に巣食っていたものはいったい何なのだ…?」長老が象の背から湖に言った。
 「それは人の執念だ…。死を迎え入れられぬ人の思いのさまざまがはびこり水に層をなしたのだ。」湖が答えた。
 「水の精とはあなたのことですか?」アサビコが湖に尋ねた。
 「いや、私そのものではない、私は幽界を又にかける湖だ。水の神性というべきものだ。その輝きの象に乗れば、越えねばならぬ世界の果ての難所、大滝を速やかに通過して行けるであろう。」

 そうして砂漠の湖を、一行はすべるように渡っていった。

第三章 黄泉からの帰還 No.59

「黄泉とは、人が考えていたものとは余程違うものかもしれんな。」
 長老は遠く湖面を見て言った。
 「そうじゃ!無意識でも隠されたものでもない。湖そのものはな…。」
 そう言った白い象の身体の白さは輝きに変わってきた
 「水が光っているよ!」
 アサビコは大発見したように大声で叫んだ。水はみるみる輝きは増してきて、まばゆいばかりの光を放った。水の光は白い象に同化して、象は透明な白金のごとく一層の不思議な輝きをたたえた。
 「おお、これはどうじゃ!ワシの身体が光っておる。身体に重さが感じられん。何かがワシに入ったぞ、こそばゆいかぎりじゃ。  皆、黄泉に渡るにはワシの背に乗ると良い。」象は水面上を浮遊するように歩き始めた。
 「これは、水の精と同化したのだ!このような美しい神秘の象は俺様も初めて見るぞ。」
 なにくわぬ顔で戻ったコントンボリは、感嘆して象の背から辺りを見回した。

第三章 黄泉からの帰還 No.58

「それではお前たちに逆に問う!暗頭来れば暗頭に打ち、明頭来れば明頭に打つ。四方八面来れば四方八面に打つ。天空に来れば連架に打つ。どこからも来ない時どうする!」
 白い象が湖に向かい吠えるように言った。
 湖から一斉にもの凄く真っ黒な何かが立ち上り、湖面はますます透明度を増し澄み渡った。
「底に何かが揺らめいている!」
 アサビコは驚き覗き込んだ。
 湖の底に大きな目玉がこちらを見ていた。
 「ありがとう!不穏なものどもは去った。
私に寄生して曇りの中に閉じ込めていたものどもだ!軒先を貸し母屋を取られたとはこのこと。あなた方が来なければ私は恥辱の死を迎えていただろう…。」どこからか声が響いた。
 「元は澄み切った湖であったな。」
 長老が言った。
 「暗い思索は濁りを増し、いつの頃からか無意識の海は濁りの魂の住処になった。私はそれが私の本質だと思い込んでしまったのだ。だが、そんなものが湖の本来であるはずが無い!あなた方のお陰で私は一瞬にして祓われた。」

第三章 黄泉からの帰還 No.57

大きなプロミネンスの波が目の前に立ち起こると渦になりアサビコ達の頭上に巻き込むように降りてきた。落ちる波頭に白い象は鼻から息を吹き上げた。巨大な波は豪快に大爆発を起こし砕け散った。その瞬間に地鳴りの様に低い声が響いてきた。
 「お前たちにとって一番いいのは生まれてこないこと、二番目にいいのはすぐ死ぬこと、では、三番目を答えてみろ!場合によってはその場でいのちを落とすことになる。」
 「三番目に…」アサビコが言いかけた時白い象が言った。
 「湖よ、その質問ならギリシャの神々がすでにしたものだ。もう少し考えのある質問をしたらどうだ!」
 すると今まで猛り狂っていた赤い波は急激に沈静化して、湖面は透明なブルーに澄んだ。

第三章 黄泉からの帰還 No.56

「あれは漆黒の勾玉だな。」白い象が言った。
 「漆黒の勾玉?」
 「ダガルティの三宝の一つだ。真の勇者の証拠であり、神の託宣のしるし…。」
 白い象が言い終わらぬうちに、突然、目の前の湖が真っ赤に盛り上がり、小山の様な波頭をこちらに向けてきた。その波頭に乗ってコントンボリが現れた。
 「俺様の波乗りの実力もたいしたものだろう?がははは。伝説のサーファーのお手並みを披露しようか?死者どもの潜在意識はこのように荒れ狂っている、沈めようと思うのは間違いだ。この荒れ狂う波を乗り切れるかどうかだ諸君!さあ、私に続け!」コントンボリは大波に乗って走った。 
ジョロボが間髪を入れずにビーターを木琴に打ち降ろした。すると一斉に皆浮遊した。

第三章 黄泉からの帰還 No.55

アサビコは居ても立ってもいられなくなた。勝手に思いが言葉となって口に出た。
 「止めても僕は行きます!コントンボリの言うように、いのちの深い働きなら、 正直にまっすぐでどこが悪いのでしょうか?それでだめなら、きっと死んだ魂も戻せません!」そう言うと、アサビコは幻の湖に入ろうとした。
 「アサビコ!まあ待ちなさい!急いては事をなんとやら、この長く生きた年寄りの言う事を聞きなされ。」長老は、満面の微笑みを浮かべて、アサビコの手からお守り袋をやさしく奪い取ると、そのまま湖に投げ入れてしまった。袋から黒い光を綺羅めかせ黒の勾玉が沈んでゆくのが見えた。
 「あっ、何を?」アサビコは我に返った。」
 「心中に真実を持ちながら、何ものをも持たない…、これを真の勇者と言う。アサビコ、おぬしはまだ頼っておる、勇者の持ち物は勇者の手に必ず返ってくるはずじゃ。
 湖の阿頼耶識はあの守り袋につけ込んできたぞ。」長老は杖に顎を乗せて言った。

第三章 黄泉からの帰還 No.53

「立つ鳥跡を濁さず、と言うのが俺は好きなんだがなあ…。」ジョロボはニヤリとつぶやいた。

 白い巨象はぐんぐんと湖に近づいていった。象の背から見渡す広大な無数のさざなみは、ますますその軌跡を複雑に輝かせていた。
 「この湖は阿頼耶識そのものだ。いわば集合無意識と言うものに近い。黄泉に行くには、この湖を渡らねばならないのだ君たちは!」コントンボリは勿体をつけた態度で湖を指差した。
 「渡ればいいのならさっさと渡りましょう。」アサビコが言った。
 「アサビコ君!世の中はそう簡単なものではないのだよ!だから阿頼耶識と言っただろう?分かる?その意味の深さに謙虚になりなさい。いのちの奥深い働きなのだよ、そう簡単には渡れないぞ。」
 No.54
 そう言うと、コントンボリはふわりと浮かび湖上を滑空した。
 湖はざわめき立ち、プロミネンス状の何かが昇り上ると、コントンボリを探ってはまた下に落ちた。 
 ちょうど、発光した空の高みを飛行していた渡り鳥の一団が湖にさしかかると、湖は
生き物の様相を帯びた。化け物の様な巨大なプロミネンス集団が、渡り鳥を真似た形態を模写して遊んでいたかと思うと、またたくまに引きずり込んでしまった。
 「阿頼耶識とはまた何としたものだ!死者の無意識ならこれほど始末に負えんものはない。溺れるものは藁をも縋るという…。つまり不用意にゆけば必ず引き込まれる。」
 長老はしばし頭をかかえた。
  阿頼耶識は自分で考えることをしない。探りのプロミネンスには二つの意味がある。遊びと謎掛けだ。愉快だとそのまま沈むことはないが、無視したり、答えられないと即座に呑み込まれて二度と戻れないのだ…。
 そのとき、アサビコの手の中に握り締めたお守り袋が突然に唸りをあげた。

第三章 黄泉からの帰還 No.52

ジョロボは木琴を弾いた。これから起こることの前奏曲というべきか、むしろ、予兆に満ちた黄泉への奏上というべきか。静かに流れるエレジー風の調べに湖に何かが行き渡るのが見えた。それは普段は見えぬ魂の飛行の軌跡だった。無数の軌跡はさざなみのように木琴の調べに震えていた。
 「ジョロボ、貴様の妙なる調べに死者の魂は感極まったようだぞ。見ろ、オパールのような色を!生きているうちには、だれも目の前の現実にしか反応できぬ人生の、あれが軌跡だ。」コントンボリが言った。
 「あの光は人の人生か!その軌跡が光っておるのか…。」長老は嘆息した。
 「美しいものだ…、苦しみも喜びも、善も悪もあのように尾を引くとな。」白い象が言った。
 「人は死んでも軌跡は残ってるのですね。」アサビコが言った。
 「そうだ、この事実を貴様達人間は知らん。」鼻くそをほじりながらコントンボリは身を反らせた。

第三章 黄泉からの帰還 No.51

巨大な象の歩行は意外な速さで、砂漠のライオンの背と呼ぶ三つの丘を、悠々と見えながら半日で越えた。
 真夜中に地平に卵のような月の出の気配を見ると、その方角に曵かれるかのごとく、白い象は向きを変えた…。月が地平から顔を出しはじめた時、オパールの輝きのようにもう一つの月が、下に分離していった。
 「見ろ!幻の湖が現れたぞ、あれだ!」白象が言った。
 「神秘的な色だ…。」アサビコは、茫然と二つの月を象の背から眺めた。
 「見たこともない美しい光景じゃ。長生きはするものじゃわい。ははは。」長老は皺だらけの細い目をより細めて言った。
 「鏡のようだ…。」コンガラがつぶやいた。
 「貴様ら、あの湖に何があるか知らんからそんな呑気なことが言えるのだ。まあすぐ分かるだろうよ。」コントンボリはうそぶくように、顎に手を当て神妙な顔をした。
 月は上下へと、みるみる分離していった。

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