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2012年11月

2012年11月28日 (水)

第六章 五万年紀 No.88

No.88

ジョロボの木琴は、煌煌と輝く十四番目の月夜の中庭に転がるように鳴り響いていた。月は昼の様な明るさで沖天にある。

庭の片隅には、戦争で亡くなった男達のために、粗末な祭壇に花と食べ物、馬や人型の像、が設けられていた。その真ん前で、男の両手いっぱいに伸ばした大きさ程もある、巨大な木琴ギルモアを弾くジョロボはさいぜんからすでに演奏の渦中に在った。

着飾った女達は、興奮に上気しながらも、なかば落ち着かない顔で、今は亡き自分の亭主の帰りを今か今かと目を見開いて待ち構えている…。

突然、神を祭る祠のある森から何者かが中庭に躍り出てきた!

2012年11月24日 (土)

第六章 五万年紀 No.87

No.87

すると、われもわれもと女達は同時に喋った。

「私の亭主も音信不通だよ!」

「ああ、あたしもだ、会いたいのにどうして来ないんだい?」」

「死んでも魂はあるはずだろ?」

「あの世はそんなに遠いのかい?間抜けだが愛していたんだよ、会いたいよ。」

「死んで、それっきりじゃたまらないよ!」

女達は、さも男がまだ生きているごとくに中空に大声で訴えた。

するとアマナがまた何事か伝えた。

「…さぞ辛い事だったでしょう。アマナさまは英霊をギルモアの木琴で迎えよ、と言っておられます。」身を起こし、ユマの鈴の様な声が響いた。ユマはアマナのメッセージを続けた。

「死者は帰っても見えないし、ものも言えない…。ですが、ギルモアはその言葉を話す。聞きたければザイロフォンジョロボに頼むとよい」。アマナは女達にそう告げた。

2012年11月14日 (水)

第六章 五万年紀 No.86

No.86

水汲みの女どもの一人ユマが光を失ったアマナの杖代わりになった。ユマはまだ若いが物静かな女で、ヘッドドレスの下のよく動く白目が褐色の肌にひと際澄んで見え、アマナの声の役目も引き受けていた。

「アマナさまは、次の十四番目の月の晩に死者の国、英霊の扉が開かれると言っておられる…。これは戦で亡くなった戦士がこの世に一夜だけ戻ることができるそうだ。」太くよく通る声でユマが言った。

それを聞いた未亡人達は驚喜した。

その中の、十八歳で夫を亡くした、どこかあどけなさの残る女は、見開いた真剣な瞳でユマに詰め寄った。

「帰らぬまま夢枕にも出ない夫に聞きたい事が有ります。」

2012年11月12日 (月)

第六章 五万年紀 No.85

No.85

アマナの漆黒の濡れたような黒髪と、切れ長の目は、白いベールの被り物で光をさえぎられてもその顔は柔らかい影に一層の神秘をたたえ、深みに輝いていた。

アマナは低くつぶやいた。

「あれはいったいどなたか…。」

アマナは心に映る影を見ていた…。あの仮面を被った人物…。あのウサギの精霊の仮面の人物はいったい誰だったのだろうか…。

過去の記憶は茫洋として定かではないが、それだけがアマナの脳裏には深く焼き付いていた。水汲みの女どもは誰ひとりとして見てはいなかった…。

2012年11月 7日 (水)

第六章 五万年紀 No.84

No.84

奇蹟は向こうからやって来た…。

何処ともなく、ウサギの精霊の仮面を被る奇妙な人物が毎朝暗いうちに、ユリの花と根をスリ降ろした汁をアマナに飲ませにやって来たのだ…。記憶や視力こそ失ったが、アマナは回復しはじめた。醜かった皮膚はごっそりとこそげ落ちて、新たな皮膚は赤子のような良い香りを放った。ユリの白い花は枯れることが無く、瑞々しく輝き、ウロの辺りはいい匂いでいっぱいになった。

アマナの宿命は驚くべき一新をされた!

 

やがてその一部始終を見ていた毎朝その前を水汲みに通る村の女らが、アマナの奇蹟の回復を拝みはじめ食べ物を置いていくようになった。その返礼に、僅かにつぶやく不平や恋の心配や行方を、アマナはことごとく訳も聞きかず平然と処方を言い当てた。

女たちの怪我や病気も、やさしい手かざしでたちどころに治し、その手は死にかけた乳児をも救う事ができた。噂はあっという間に広まり、遠い村からも奇蹟を一目見ようと多くの人が来た。

バオバブの『白の御宿り』として、まもなくアマナを信奉する、女たちの強力な秘密結社の誕生をみる事となった…。

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