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2013年7月

2013年7月28日 (日)

第七章 信じようと信じまいと No.109

No.109
「イタチめ!岩を伝わって逃げたな!大人、少々お待ち下さい。」
そう言うと鴫童子は、瞬く間に鼬鼠の後を追い、岩に消えた。
「シギよ、深追いは禁物だぞ!」大人の声が虚空に響いた。
大きく旋回して、宙の人魂の一つがするりと延命冠者の背に入った。

「…これは、どうした…ことだ?」
倒れていた延命冠者が、息を吹き返した。
「おおっ、正気に戻られたか。」
茫然自失ながらも延命冠者は立ち上がると、一周りゆっくり見回し言った。
「…目出度いかな、目出度いかな。
我らの魂魄が幽界を彷徨っておるところを、あなた様に救われた…。
お礼に一つ極上の舞を致しましょうぞ。」

白い砂地に、摺り足に輪を描き広げながら、延命冠者はそこに不思議な舞を舞った…。
足先が進むにしたがい、次第にその姿は透明になった。
やがて舞も延命冠者も見えなくなると、白砂の上の跡だけが残ったが、それも掃き清められるように無くなると、風が遠くに渡った…。

「見事に何も無い…。」
そこには清浄なる無音があるばかりだった。
松風大人は、茫洋たる虚空に無際限のいのちを見る思いがし、おもわず再び感嘆の息を洩らした。
「むむっ、…見事に何も無い。」

2013年7月 7日 (日)

第七章 信じようと信じまいと No.108

No.108
「きさまの夢などどうでもよいわ!すぐに魂を返し、俺を放せば許してやる。
さもないと、きさまらはここで魂の重罪人となるぞ!」悔しまぎれに延命冠者が叫んだ。
「重罪人?どういうことだ?」
「俺の大切な魂を性懲りも無く横取りし、盗んだからだ!」
「わしらは、盗られた魂を解放したまでだ。」
「うるさい!すぐに術を解け!四の五の言わずに人魂を置いて行けば見逃してやる。
さもなくば、きさまらもここで終わりだ!俺が取って食ってやる。」
怒り狂った延命冠者は、片手で腰の小太刀を抜いた。

鴫童子は大人の前に立ちはだかり、両手を広げて言った。
「松風大人、この男は延命冠者ではありません!延命冠者は魂魄を乗っ取られて宙におります、
今しがたの夢に知らされました。
この男は延命冠者と従者を襲い、まんまと延命冠者に成りすました盗賊の鼬鼠(イタチ)です!」

「ええい!小僧、きさまから血祭りだ!」
そう言うと、延命冠者の鼬鼠はシギに襲い掛かった。
鴫童子は素早く体を交わし、背に鋭い一撃をくわえた。

突然「ウギャー!」と野獣のような叫び声を上げ、
延命冠者の臍のあたりから抜け出た鼬鼠は、一目散に祠の方向に突っ走ると、岩の中にかき消えた。

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